ところが、建築の場合、クライアント（施主）、設計者、敷地のどれかが変わると、「同じものができることはあり得ない」と言い切ってもよいでしょう。それこそ、同じ条件であったとしても、3者が出会う日が1日でも違っていれば、違う建築になってしまうことが十分に考えられます。また、同じ条件であっても、設計者の雇っているスタッフが違っただけでも異なる建築になるのです。この違いこそが、建築の設計が面白く、また難しいところでもあります。 とてもコンピューターのデータと計算だけでできるものではないのです（過ごしていて「気持ちがよい」と感じる条件も人それぞれですから、その違いをコンピュー ターに教え込むなんてとんでもないことです）。
この3者の出会いはとても重要ですし、少しでも相性が悪いと感じたら思いきって他の設計者を探すほうがお互いのためだと思います。

また、設計においては「時間」も重要なファクターだと考えます。「気持ちのよさ」ひとつを取っても、設計者とクライアントがお互いにそれを共有できるようになるには、ある程度の時間が必要です。また、ほとんどのクライアントは縮小された図面から、立体、特に原寸大のものを思い浮かべることに慣れていません。それどころか、平面図の見方もわかりにくいはずです。それまで必要ではなかったことですから、わからなくて当然です（設計者だって確実にはわからないのですから…。だからこそ模型をつくったり透視図を描いたりして設計者自身も検証するのです）。私の経験では、クライアントが図面に慣れるまでに早くても2～3ヶ月近くかかっています。だからこそ、短期間での設計はとても危険だと思っています。

住宅は一生のうちの大きな買い物の一つです。せっかくの買い物ですから充分に吟味することを「楽しみ」にしてほしいと思います。 同じお金を使うのであれば、できるだけ長く楽しめるほうが得した気分にもなれますよね。一所懸命考えた分だけ、建築ができあがっていくときのワクワク感は大きいものになります。とにかく時間を確保して、それを一緒に楽しんでくれそうな設計者を探すことからはじめることをおすすめします。